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GEMSIS-太陽 (Sun)

フレア環境下における粒子ダイナミクスの数値モデリング

本プロジェクトでは、数値シミュレーション手法を用いて、太陽フレアにおける粒子ダイナミクスの研究を行っています。 太陽コロナのような磁場を帯びたプラズマ中では、粒子はローレンツ力によるジャイロ運動を行います。 ところが、コロナでは、粒子のジャイロ半径や周期は、フレア現象の時空間スケールに比べ、6-9桁と、正に桁違いに小さいです。 ですから、粒子のジャイロ運動をきちんと解く手法では、フレア現象全てをカバーする計算は不可能で、 シミュレーション結果と観測結果の直接比較ができません。

上記の難点を回避し、観測との直接比較が可能な数値シミュレーションを実行するため、我々は、粒子のジャイロ運動を粗視化した ドリフト運動論(Northrop 1963)を採用しました。 また、観測量であるエネルギースペクトルやピッチ角分布と比較するためにも、粒子を分布関数レベルで把握する必要があると考えました。 そこで我々は、ドリフト運動論に基づいたブラソフ方程式を直接解くことで、粒子の時間発展を追います。

一方、粒子が運動する場については、解析的なフレア磁場モデル(Lin et al. 1995)を採用しました。 この磁場モデルを、観測結果(e.g., Qiu et al. 2002)を模擬して時間変化させることで、フレア磁場の時間発展を与えます(下図参照)。 これにより電場が誘導され、粒子を加速します。この手法は非常に理想的なものであり、 今後、ひので衛星観測に基づいた場や、MHDシミュレーションで得られた場を用いる、最終的には粒子と場をセルフコンシステントに解くと、より現実的なものに発展させる必要があると考えています。

本研究で採用した磁場モデルの時間発展。白線は磁力線、カラーは磁場強度を表す。横軸は太陽光球面平行方向、縦軸は高度方向に相当する。 時間は10秒間、空間は約9000km x 13000kmで、フレアの現実的スケールとなっている。


ドリフト運動論的ブラソフシミュレーションの結果の一例。初期に3 keVの電子を一様に分布させた後の時間発展。境界は上・右境界は開放、左境界は対称、下境界はゼロ固定条件を与えている。

  • 左図:20 keV の電子数の空間分布をカラーで表わしている。白線は磁力線。閉じたループの頂点付近(x=0, z=0.7-0.8)で強い加速が起き、粒子数が増加している様子がわかる。
  • 右図:左図の黒三角印(電場ドリフト軌道)における電子速度分布関数(上段)とエネルギースペクトル(下段)。ブラソフ方程式を採用したことで、電子がどの位置でどの様に加速されているかを、分布関数レベルで把握することができる。