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GEMSIS-太陽 (Sun)

太陽フレア多波長データ解析による粒子加速研究

野辺山電波ヘリオグラフは、1992 年の観測開始から 20 年間に 600 個以上の太陽フレアを観測してきました。 それらにおいて、17 GHz マイクロ波と GOES 衛星 X 線のそれぞれ のピークフラックスを比較すると、散らばりはあるもののいい相関があることが分かっています。 つまり、フレアの非熱的放射 (粒子加速) と熱的放射 (プラズマ加熱) には相関があるということです。 しかし、熱的放射に比べて非熱的マイクロ波放射が極端に強いフレアが 2011 年 3 月 10 日 2 時 56 分 (UT) に西のリムで検出されました。 マイクロ波の継続 時間は約 1 分間で、ピークフラックスの値は、17 GHz と 34 GHz でそれぞれ 210, 133 SFUでした。 その電波強度に対して、前述の相関関係から予想される GOES クラスは、M1- M2 程度であるのに、このフレアでは B1 レベル以下の増光しか見られていませんでした。 SDO 衛星の紫外線画像を詳細に調べても、活動領域の中でループ構造が短期間だけ若干明るくなるマクロフレア的な様子を示すだけでした。 また、すざく衛星が 100 keV 以上の硬 X 線 を検出していており、このフレアで高いエネルギーの電子が生成されたことは確かです。 このように非熱的放射が異常に強いフレアの発生原因を考察しました。 フレアループトップ付近の磁場が非常に強い場合、そこでの電波強度は大きくなり、かつ、磁気ミラーによるループ内へのトラップが効かないため短寿命になり、 このイベントの観測結果を説明することができます。



左上: GOES 衛星の計測した太陽全面からの軟 X 線強度(実線 1-8 Å、点線 0.5-4 Å)。 左中: 上記の軟 X 線強度 (1-8 Å) の時間微分。 左下: 国立天文台野辺山太陽電波観測所の強度偏波計により観測された 17 GHz (実線)と 35 GHz (点線) の電波強度。 右: SDO 衛星により観測された太陽フレアの紫外線 (131 Å) 画像 (グレースケール)と野辺山 電波ヘリオグラフにより観測された 34 GHz の電波画像 (等高線)。

衛星・地上観測データの総合解析による太陽フレア粒子加速研究

太陽フレア(太陽面爆発)が発生すると、太陽大気(コロナ)中の粒子が加速され、 大量の高エネルギー電子・陽子が生成されます。 どこで、どのように、粒子が加速されているか、については、よく分かっておらず、太陽フレア研究の大きな課題の一つになっています。 太陽フレアの場合は、実際にその場で粒子を直接観測することはできず、光を用いたリモートセンシング観測により、 そのような加速粒子の存在場所、運動、消失などの情報を得ることになります。 加速電子の場合は、そのエネルギー(10 keV ∼ 10 MeV)に対応する、ひじょうに高いエネルギーの光(硬X線、ガンマ線)を放射します。 また、磁場との作用により、電波も強く放射します。 したがって、高エネルギー電子の研究には、そのような波長帯の観測が重要になります。 また、加速電子が運動している空間(場)の情報(磁場、電場、プラズマ密度、温度など)の情報も、硬X線や電波の放射を正しく理解する上で、必要不可欠です。 つまり、場の情報を与えてくれる軟X線・紫外線観測、可視光による磁場観測なども合わせて、ほとんど全ての波長帯の観測データを 総合して解析しないと太陽フレアの粒子加速を理解することはできません。 そこで、私たちは、RHESSI衛星、野辺山電波ヘリオグラフ、Hinode衛星、 SDO衛星、SOHO衛星、TRACE衛星、STEREO衛星、地上Hα観測など多種多様なデータを取扱い、太陽フレアにおける粒子加速過程の研究を進めています。 また、観測データだけは物理過程を詳細に検討することは難しいので、フレア粒子加速の計算機シミュレーションの結果とも比較することで、 研究をさらに発展させています。

太陽極域三次元磁場

2002年8月24日に太陽の西の縁で発生した太陽フレアの多波長観測の例。緑のカラーマップは、 TRACE衛星によって観測された紫外線強度で熱的プラズマの分布を示しています。青の等高線は、RHESSI衛星によって観測された硬X線強度分布で、 100keV程度のエネルギーまで加速された高エネルギー電子からの放射です。硬X線源は、フレアループ上空に集中していることが分かります。 水色と赤の等高線は、国立天文台の野辺山電波ヘリオグラフによる17GHzと34GHzの電波強度であり、 さらに高いエネルギー(∼1 MeV程度)まで加速された高エネルギー電子からの放射だと考えられています。 これらのエネルギーの異なる加速電子から放射されるさまざまな光を同時に撮像観測することにより、 その空間分布・時間変化から、太陽フレアにおける粒子加速の情報を引き出すことができ、 粒子加速機構のさまざまなモデルに対して、大きな制約を与えることができます。(協力: S. Krucker博士 @UC Berkeley)


可視光高速撮像観測による太陽フレア研究

2011年度太陽地球環境研究所地上ネットワーク観測大型共同研究 (重点研究) として、 京都大学大学院理学系研究科附属天文台と可視光高速撮像観測による太陽フレア共同研究を開始しました。 まず、フレア高速撮像システムを製作し、京都大学飛騨天文台のSMART望遠鏡に設置しました。 これはHα線と連続光を同時に且つ25フレーム/秒という高いレートでフレアの撮像を行うものです。 2012年度も順調に観測を続けており、白色光フレア高速観測による粒子加速研究、 Hαカーネルの観測によるフレアトリガー研究などの共同研究を行っています。


2006年12月13日に発生した太陽フレアにおける粒子加速現象の多波長解析

太陽フレアにおける粒子加速機構・現場を観測的に明らかにするため、ひので衛星で詳細な観測がなされた 2006年12月13日の太陽フレアについて、 RHESSI 衛星や野辺山電波 ヘリオグラフの観測結果を併せた解析を行いました。ひので衛星はフレア発生前後の光球3次元磁場ベクトルグラムを取得しています。 このベクトルグラムと RHESSI 衛星で得られた X 線画像との比較から、高エネルギー電子が磁気セパラトリックスに沿ってコロナから彩層に降下した可能性が高いことを示しました。 また野辺山電波ヘリオグラフで得られた画像からは、その高エネルギー電子のピッチ角は磁力線平行方向に卓越した分布をしていると考えられます。 以上から、電子は磁気セパラトリックス付近で強い湾曲ドリフト加速を受けたと結論付けられました。

図:ひので衛星で観測された光球3次元磁場マップ(カラー)とRHESSI衛星で観測された35-100 keV の硬X線強度分布(黒等高線)。 磁場マップは左から東西成分、南北成分、垂直成分の磁場強度を表わしています。白破線はひので衛星で観測されたフレアリボンの位置を示しています。 左の2枚の図から、X線源は磁場平行成分の方向が大きく変化する場所に局在していることが分かります。