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GEMSIS-磁気圏 (Magnetosphere)

GEMSIS-放射線帯モデルの開発

放射線帯を構成し、相対論的な高エネルギーを持つ電子は、短時間で局所的なホイッスラー波動や電磁イオンサイクロトロン波動によって、散乱や加速を受けます。同時に、比較的長時間にわたる磁気圏全体の動きに関係する低周波ULF波動 (Pc5) によって加速され、また、宇宙嵐時のように磁気圏磁場構造が大きく変化すると消失します。このように、相対論的エネルギー電子は、幅広い空間および時間スケールの影響を受けます。

放射線帯を構成する相対論的エネルギー電子の振る舞いを正確に追跡するために、ドリフト近似を用いた3次元相対論的粒子軌道計算コード(GEMSIS-RBモデル)の開発を行ってきました。また、波動粒子相互作用による加速や、大規模磁場構造変形に伴う消失など、様々な時空間スケールで起こる物理現象を明らかにするために、マルチスケール放射線帯電子シミュレーションの開発を行い、ホイッスラーモード波動と電子との非線形波動粒子相互作用をグローバルに解くことに成功しました。このコードはホイッスラーモード波動の非線形情報を保持しつつ、時空間に広いスケールにおいて計算が可能という特徴をもっています。これまでの主要な成果は以下の通りです。

  • 実際の観測データに基づいた経験磁場モデルを適用し、相対論的電子のフラックス構造の時間変化を求めました。太陽風動圧によって地球磁気圏が変形する際に、惑星間空間へ相対論的エネルギーの電子が逃げて行く様子の再現に成功しました。
  • 地球磁気圏から放射線帯の電子が逃げた後、放射線帯外帯の一部が分裂し、磁気圏昼側・高緯度部分で孤立的な構造が現れることを発見しました。この結果は、磁気圏内での相対論的電子の分布を調べるためには、現実的な3次元磁場構造を考慮しなければならないということを示唆しています。
  • MeV 電子とホイッスラーモード・コーラス波動との相互作用のシミュレーションを行った結果、マイクロバーストとして知られる1秒以下の時定数でのバースト的降りこみ現象が再現され、マイクロバーストの起源はコーラスによる非線形波動粒子相互作用であることを実証しました。

また、これまでGEMSISプロジェクトで開発してきたジオスペース要素モデル(グローバルMHDシミュレーション:GEMSIS-GM、リングカレントシミュレーション:GEMSIS-RC)をGEMSIS-RBに組み合わせ、現実的な磁気圏における、太陽風や環電流イオンに起因するMHD波動中での高エネルギー電子の輸送、消失過程のシミュレーションを行う「マルチスケールシミュレーション」のためのモデル結合に基づく研究を開始しました。

  • グローバル MHD シミュレーション (GEMSIS-GM) の中で、 テスト粒子計算を行うことによって、惑星間空間衝撃波到来時に磁気圏を伝搬するFast mode 波動と高エネルギー電子の相互作用によって、高エネルギー電子の軌道がどのように変調されるかを調べました。惑星間空間衝撃波到来時、放射線帯の多くの電子は、地球の周りをドリフトする間に様々な位相の電場を感じるために効果的な加速には至らないものの、ドリフト周期がFast mode波動との伝搬速度にほぼ一致する一部の電子については、 ドリフト中に常に同相の電場を感じることで選択的な加速が起こり、10 分程度の短時間に1 MeV 以上のエネルギーを獲得できることがわかりました。

参考文献: Saito et al., JGR, 2010; Saito et al., JGR, 2012