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GEMSIS-電離圏 (Ionosphere)

磁気急始の研究

磁気急始時に形成される3 次元電流系の作る地上磁場変動の特徴

磁気急始 (SC) のメインインパルス (MI) 期には、磁気圏の急激な圧縮によって内部磁気圏における磁気圏対流の強化と領域1型沿磁力線電流、それに付随した電離圏電流が発達します。この3次元電流系のもたらす地上磁場変動の特徴を明らかするために、磁気赤道からサブオーロラ帯にいたる6つの観測点 (キングサーモン、女満別、柿岡、沖縄、グアム、ヤップ) で観測されたMI期の磁場振幅の統計解析を行いました。その結果、昼間側の振幅分布は、中緯度においてDP2電流のもたらす磁場変動を示す一方、低緯度では、正午付近で振幅が最大となる磁気圏界面電流起源の磁場変動が卓越する分布を示しました。そして、その磁場変動の統計分布から、中緯度で支配的となるDP2電流の影響が少なくとも磁気緯度16度まで広がっていることが明らかとなりました。また、磁気赤道では、朝夕方向の対流電場が作る電離圏ペダーセン電流がカウリング効果によって増強され、その磁場振幅は10時付近で低緯度の約3倍にも達し ていました。一方、夜側においては、全ての観測点で磁場振幅が増加し、磁気緯度の増加と共に振幅が大きくなる傾向を示しました。この傾向から、夜側における振幅の増加要因は、MI期に形成される領域1型沿磁力線電流の作る磁場擾乱であると結論されます。

磁気急始の振幅の磁気緯度と磁気地方時の依存性

磁気赤道から中緯度領域における磁気急始 (SC) の磁場振幅の磁気緯度と磁気地方時の分布を明らかするために、まず、1981年1月から2008年1月までの約27年という長期間のSym-H指数データを用いてSCのイベントリストを作成しました。ここでのSCイベントは、そのSym-H指数データにおいて約10分間以内で5 nT以上の振幅を持ち、そのときの変化率が1.5 nT/min以上を示す現象として定義されています。そのリストに基づいて磁気赤道から中緯度に属するほぼ同じ磁気経度の5つの観測点 (女満別、柿岡、沖縄、グアム、ヤップ) で得られたSCの磁場振幅について解析を行いました。その結果、昼間側の振幅の日変化は、中緯度においてDP2型の変動を示す一方、低緯度では、正午付近で振幅が最大となる磁気圏界面電流起源の磁場変動が卓越する分布を示した。さらに、磁気赤道では、カウリング効果によってその振幅が異常増加し、午前10時ごろに最大となる傾向を示しました。一方、夜側においては、全ての観測点で振幅が増加し、磁気緯度が高くなるに従ってその増加量が大きくなる傾向を示した。この傾向から、夜側における振幅の増加要因は、磁気圏の圧縮によってもたらされる領域1型沿磁力線電流の作る磁場擾乱であると考えられます。

参考文献: Shinbori et al., JGR, 2012

磁気急始振幅の日変化の季節依存性

太陽風動圧の急増がもたらす磁気急始(SC)時の地上磁場変動の季節依存性について、高緯度から低緯度に至る長期の地上磁場観測データを解析しました。その結果、その日変化の大きさに明瞭な季節変動があることが見出されました。昼間側のオーロラ帯から中緯度において顕著に見られるDP-2型の磁場振幅は、冬季に比べて、約2.5-3.0倍ほど夏季に増加します。そして、同様の傾向が沿磁力線電流の作る磁場変化が卓越する夜側においても見受けられました。このことは、電離圏電気伝導度の高い夏季の時期にSC時に形成される沿磁力線電流と電離圏電流が強くなることを意味しています。以上の結果から、SC時の電流系は定電圧源であると結論できます。

参考文献: Shinbori et al., JGR, 2012

南大西洋地磁気異常帯における磁気嵐急始負インパルスの異常発生

磁気赤道で多発し低緯度ではほとんど出現しない磁気嵐急始時の負インパルス(PRI)が、南大西洋地磁気異常帯(SAA)において多発することを発見し、地磁気が弱い電離圏中の電気伝導が大きくなることが原因であることを明らかにしました。

参考文献: Shinbori et al., JGR, 2010

衛星による内部磁気圏電場の高速応答と上向きポインティングフラックスの発見

磁気嵐急始時にグローバルに発生するインパルシブ電場が電離圏から内部磁気圏へ伝搬するポインティングフラックスにより輸送されることを発見し、地面電離圏導波管モデルから予測される電場と一致することを示しました。さらに南向き惑星間空間磁場による対流電場の増加が電離圏を経由して内部磁気圏へ伝送されることを示しました。

参考文献: Nishimura et al., JGR, 2010

磁気インパルスイベントに伴う昼側陽子オーロラの発見

磁気インパルスイベントは昼側の高緯度地方で観測される突発的な地磁気変動です。磁気インパルスイベントに伴って電子が降下し、オーロラを発光させる事例は報告されています。南極点基地で観測した陽子オーロラのデータを詳細に調べたところ、磁気インパルスイベントによって陽子オーロラも光ることが明らかになりました。これは陽子の降下を示唆するものです。この陽子オーロラには移動性のスポットと定在性のスポットの2種類があり、どちらも寿命は数分程度でした。この観測結果は、太陽風変動に対する昼側磁気圏の応答を知る手がかりになると考えられます。

参考文献: Ebihara et al., JGR, 2010

負相磁気急始に伴うサブオーロラ帯電離圏対流の時間発展

太陽風動圧の急減によって引き起こされた、負相の磁気急始に伴ってサブオーロラ帯に誘起される電離圏プラズマ対流に関して、SuperDARN短波レーダーデータ、地磁気データ、および人口衛星観測データを用いることで、電離圏プラズマ対流の時空間発展について詳細に調べました。その結果として、磁気急始の地磁気変動波形に見られる、地磁気南北成分の減少およびその高緯度方向への伝搬に関して、それに対応する過渡的東向き電離圏対流が数度の緯度幅を持ち、かつ地磁気と同様に高緯度方向に移動していたことを観測的に実証しました。またそのような東向き対流が繰り返し起こっていたことも観測されており、このことから、磁気急始の原因となった磁気圏の急膨張によりグローバルな磁気圏振動が起こっていたことが示唆されます。

参考文献: Hori et al., JGR, 2012