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GEMSIS-電離圏 (Ionosphere)

サブストーム過程の研究

オーロラ爆発と磁気リコネクション

オーロラが爆発に明るくなる「オーロラ爆発(サブストーム)」現象の統計解析を行いました。用いたデータは、科学衛星ポーラー取得のオーロラ画像、および科学衛星ジオテイルの磁場・プラズマ観測です。解析の結果、地球の極域電離圏において、オーロラが爆発的に発達するとき、地球の磁気圏尾部では、必ず磁気エネルギーの解放過程である磁気再結合(磁気リコネクション)が生じていることを明らかにしました。

参考文献: Ieda et al., JGR, 2008


オーロラサブストーム開始の前兆現象

オーロラサブストーム開始に至る時系列は40年以上にわたって論争が続いてきた、磁気圏−電離圏結合系における大きな未解明問題です。本研究では、NASAのTHEMIS衛星、地上全天カメラ網のデータを用い、オーロラ帯極側境界増光がサブストームの前兆現象となることを事例解析と統計解析から明らかにしました。また、SuperDARNレーダーによる電離圏プラズマ流の同時観測との比較の結果、オーロラ帯極側境界増光に先行して極冠域の赤道側向きプラズマ流が増大することが確かめられました。この結果は、開いた磁力線上を局在した速いプラズマ流が開いた磁力線と閉じた磁力線の境界に向けて伝搬し、それがオーロラ帯極側境界増光およびそれに引き続く南北オーロラ(オーロラ帯の赤道向きプラズマ流)に接続することを示しています。さらに、サブストームの開始する時としない時でどのようにプラズマシートの状態が異なるかを調べました。その結果、南北オーロラの大きさや明るさには有意な差は見ら れないのに対し、サブストームトリガー領域のアークの明るさが異なる事が見出された。このことは、南北アークの存在以外に近地球プラズマシートの圧力の高さがサブストームトリガーの条件になっていることを示唆しています。

参考文献: Nishimura et al., JGR, 2011


2008年2月28日にTHEMIS全天カメラで観測されたサブストーム。両方のパネルで高緯度側にストリーマが見られますが、右側の場合(左側のパネルから26分後)のみでサブストームが起きました。オーロラ帯の赤道側境界において、左側の時刻ではディフューズオーロラが卓越しているのに対し、右側の時刻では薄いアークができている違いが見られました。

オーロラサブストームの電流系

  • サブストーム時に急激に発達するオーロラバルジに関して、Polar、FAST、DMSPなど複数衛星と、複数地上磁力計による同時観測に基づいて、バルジ内での電離圏電場-電流の空間勾配をスナップショット的に捉えることができました。結果として、夕方から真夜中に向かって東向きに流れている電離圏ジェット電流が、地方時にして約2時間分の距離を進む間に、その強度が数分の1に減衰していることが分かりました。このことは、バルジ内では、東向きジェット電流のような大規模な構造をもつ電流系であっても、沿磁力線電流を介した磁気圏との電流のやり取りの結果、電離圏電流がかなり小さい空間スケールで急激に変化しているということを示しています。
  • オーロラ爆発上空では、磁力線に沿った電流(沿磁力線電流)が観測されます。この沿磁力線電流が、東西電流ペアであるのか、南北ペアであるのか、あるいは両者の競合であるのかを明らにすることが、電流系の駆動源を理解するために重要です。本研究では、地磁気データとオーロラデータを用いた地磁気逆計算法により、沿磁力線電流を面でスナップショット推定し、その成分を分解しました。その結果、西向きジェット電流の南北で、推定した沿磁力線電流の、ホール成分とペダーセン成分が反相関していました。この結果は、東西ループ電流に関係した電場が、南北方向の分極電場を生成したことを示唆しています。

オーロラ爆発開始時における降下電子

  • オーロラ爆発開始時に、どのような電子が降下しているかを調べました。オーロラ爆発の開始6分前に、FAST衛星がオーロラ爆発の開始地点を通過し、1 keV以下の広帯域型の電子と、10 keV程度のディフューズ電子の共存を観測しました。また、開始7分後には、DMSP衛星が開始地点の西(15度)において、拡大してきたオーロラの前面(サージホーン)を通過しました。そこで観測された電子は、開始6分前に観測された電子と比較して、広帯域型の電子とディフューズな電子が共存していた部分が、逆V型の電子に置き換わっていた点が異なっていました。以上の観測結果により、オーロラ爆発開始時における、ディフューズオーロラからディスクリートオーロラへの変化の過程で、ディフューズ電子と広帯域電子が共存する段階があると考えられます。
  • オーロラ爆発開始1-2分前に、FAST衛星およびDMSP衛星が観測した、オーロラ電子を調べました。オーロラ爆発の開始時刻・位置は、Polar衛星の紫外線オーロラ観測を用いて同定しました。また、開始2分前のオーロラアークの同定には、DSMP衛星の可視光オーロラ観測を用いました。

    オーロラ爆発の開始1分前に、開始地点(MLT=21.4時、MLAT=62.2度)付近をFAST衛星が南北に通過しました。FAST衛星の高度は1800 kmであり、加速域よりも低高度であったと考えられます。FAST衛星は、オンセット緯度付近において、9 keVのディフューズ電子、低エネルギー(1 keV)の逆V電子、1 keV以下の広帯域な電子を観測しました。これらの電子は、DSMP画像において、ディスクリートアークに、空間的に対応していました。

    一方、オーロラ爆発の2分前には、DMSP衛星が開始地点の西(15度)において、10 keVのディフューズ電子と、300 eV以下の広帯域な電子を観測しました。これらの電子は、DMSP画像において、ディフューズアークに対応していました。以上の観測結果より、オーロラ爆発直前に、ディフューズアークがディスクリートアークに変化することは、広帯域な電子の最高エネルギーが上がることに対応する、すなわち、加速域のキャビティが発達し、アルベン速度が上がることに対応していると考えられます。

テミス衛星群と地上オーロラビデオとによる2008年3月1日のサブストーム同時観測

テミス衛星群が真夜中前に滞在していた2008年3月1日に、カナダのFort Smith (0650 UTに67 MLAT、22.5 MLT) において、オーロラの白黒ビデオ観測 (サンプリングレート: 30 Hz) を行いました。特に0647 UT に生じた擬似ブレイクアップを調べました。まず、赤道側に移動していたオーロラアークが、0640 UT に消失しました。その場所で6分後、弱いオーロラの増光が0646:28 UTに観測され、続いて擬似ブレイクアップが0647:27 UTに開始しました。この擬似ブレイクアップが0648 UT頃に消失すると同時に、西側から明るいオーロラのパッチが東側に移動してきて、ローカ ルなオーロラ爆発に発達することが観測されました。一方、0647:27 UTの擬似ブレイクアップの2分前 (0645 UT) に、磁気圏尾部に滞在していたテミス衛星B (GSM X,Y,Z = -20, 4, -2 Re: Re は地球半径) では、磁場が南向きに変わり、突発的なな尾部方向のフロー (~100 km/s) を観測しました。その後0646 UT には、テミス衛星E (GSM X,Y,Z = -11, 4, -2 Re)とテミス衛星D (GSM X,Y,Z = -11, 3, -2 Re) が地球方向のフロー (200 km/s、 50 km/s) を観測し、テミス衛星A (GSM X,Y,Z = -7, 5, -2 Re) は磁場双極子化を観測しました。これらの地上オーロラ観測と衛星プラズマ・磁場観測の時間差から、0647:27 UTの擬似ブレイクアップに対応する磁気圏尾部の磁気リコネクションは、擬似ブレイクアップの約2分前に生じたと考えられます。