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GEMSIS-電離圏 (Ionosphere)

過遮蔽の研究

極域沿磁力線電流分布と過遮蔽発生の関係

電離圏全球ポテンシャルソルバー(GEMSIS-POT)を用い、領域1型沿磁力線電流と領域2型沿磁力線電流の強度比・相対位置と過遮蔽発生の関係を調べました。電離圏電気伝導度は、NRLMSISE-00とIRI-2007モデルを用いて算出した全球背景分布に、オーロラ帯に対応する電気伝導度増大(ここでは、降下電子分布統計モデル[Hardy et al., 1987]を使用)を加えたものを使用しました。沿磁力線電流分布はHori et al.による経験モデルを参照しました。ここでは、強度・位置を固定した領域1型沿磁力線電流に対し(ピーク地方時0900 LT、1500 LT、ピーク電流密度1.6 μA/m2)、領域2型沿磁力線電流の強度・位置を変化させて(ピーク地方時0900 LT、1500 LT)から 1時間ずつ夜側へ移動、ピーク電流密度は 0-1.6 μA/m2の間で変化)、計算を行いました。結果は以下のようにまとめられます。

  • 領域2型沿磁力線電流が領域1型沿磁力線電流と同じ地方時に位置する場合、 領域2型沿磁力線電流と領域1型沿磁力線電流の電流量比が0.69-0.82で過遮蔽となるが、領域2型沿磁力線電流が夜側へ移動すると、領域2型沿磁力線電流と領域1型沿磁力線電流の電流量比が 0.55-0.69で過遮蔽となります。すなわち、領域2型沿磁力線電流が電気伝導度の低い夜側へ移動するに従い、比較的小さい領域2型沿磁力線電流の電流量でも効率よく過遮蔽が発生します。
  • しかしながら、同時に、領域2型沿磁力線電流による電場ポテンシャルが夜側に偏ることから、真昼側で部分的に領域2型沿磁力線電流センスの電場が弱まり、領域1型沿磁力線電流による電場ポテンシャルが中低緯度まで侵入します。
  • 総合すると、領域1型・領域2型沿磁力線電流の配置によって、領域2型沿磁力線電流センスの電場構造の中に、真昼側中低緯度域に局所的に広がる領域1型沿磁力線電流センスの電場構造を内包するという、複雑な電場構造になり得ます。

これら結果は、領域1型・領域2型沿磁力線電流の配置と観測点位置の関係によっては、電離圏全体では過遮蔽となっていても、限られた観測点ではその徴候が検出されない可能性があることを示唆し、逆に、過遮蔽の徴候が検出されない観測事例に対し、過遮蔽の発生を一概に否定するのではなく、領域1型・領域2型沿磁力線電流の配置が観測点で過遮蔽の徴候をもたらす配置ではなかったという可能性を提案します。つまり、電離圏状態の記述には、従来の遮蔽/過遮蔽という二極分離は不十分であり、過遮蔽の完全性を考慮する必要性があることを提案し、「complete overshielding、incomplete overshielding」という新しい分類法を導入した。

固定した領域1型沿磁力線電流に対し、領域2型沿磁力線電流を変化させた場合の電離圏のポテンシャルパターンの概観。上段から下段に向かって、領域2型沿磁力線電流の電流量を増加させ、左列から右列に向かって、領域2型沿磁力線電流のピーク地方時を領域1型沿磁力線電流のそれから1時間ずつ夜側へ動かしています。領域2型沿磁力線電流が夜側へ移動するに従い、小さい電流量でも効率良く領域2型沿磁力線電流のポテンシャルが生じ、同時に、真昼側では領域2型沿磁力線電流センスの電場が弱まるため、領域1型沿磁力線電流のポテンシャルが中低緯度に張り出す様子が見られます((b')-(d'))。



参考文献: Nakamizo et al., JGR, 2012

準周期DP2地磁気変動に伴う対流電場と過遮蔽電場

赤道で観測される周期30-60分のDP2地磁気変動は、磁気圏対流電場が赤道電離圏へ侵入した結果です。対流電場は磁気嵐の主相でも赤道へ侵入し、強い赤道ジェット電流を流しますが、この間遮蔽電場が発達し、磁気嵐回復相で電離圏電場を逆転させ、逆向き赤道ジェット電流 (CEJ) を流すことが報告されています。準周期DP2地磁気変動における遮蔽電場の役割を明らかにするために、低緯度赤道の磁場変動から電離層電流の向きを調べた結果、赤道ジェット電流の向きが周期的に反転することを見いだしました。これは、対流電場と過遮蔽電場が交互に卓越することを示しています。さらに、SuperDARNコンベクションマップとCRCMリングカレントシミュレーションによって、惑星間空間磁場Bz変化に対応し、領域1型と領域2型沿磁力線電流が交互に卓越することが原因であることが明らかになりました。この結果により、30分から数時間スケールで変動する擾乱現象に、対流電場と過遮蔽電場が拮抗しながら寄与することが示唆されます。また、サブストーム開始時に観測される過遮蔽電場が、磁気双極子化により強められた領域2型沿磁力線電流によることを、グローバルMHDシミュレーションにより確認しました。

参考文献: Kikuchi et al., JGR, 2010

磁気嵐時の過遮蔽に伴う電離圏電流
  • 太陽風衝撃波に伴う強い南向き惑星間空間磁場 (IMF) が磁気嵐を発生させた3例を解析し、環電流の発達と同時に、昼間赤道電離圏で強いジェット電流 (DP2電流) が発達し、回復相に入ると、過遮蔽電場によるカウンターエレクトロジェット (CEJ) が発生することを示しました。赤道DP2電流の発達が環電流の発達と数分以内で同時であることは、磁気嵐電場が電離圏に電流を流すと同時に、電離圏から内部磁気圏へ伝搬することを示唆してます。また、過遮蔽が発生する条件に関して、磁気嵐主相後半において強い遮蔽電場が発達することを示しました。この状態のもとでは、IMFが南から北に転ずる場合、南向きIMFが方向を維持して減少する場合、そして南向き成分が継続しつつ変動する場合のいずれにおいても、過遮蔽が発生しました。過遮蔽発生時には、オーロラジェット電流が極方向へ急速に移動しており、これが過遮蔽を引き起し、磁気嵐を回復相へ移行させる原因である可能性があります。
    参考文献: Tsuji et al., JGR, 2012
  • 中緯度における磁気嵐時の過遮蔽電流系の時間・空間発展を明らかにすることを目的として、顕著な赤道エレクトロジェットと赤道カウンターエレクトロジェットが見受けられた20例の磁気嵐 (期間は2001から2002年の2年間) に対して高緯度から磁気赤道にわたるグローバルな地上磁場変動の統計解析を行いました。その結果、11例において中緯度で明瞭な過遮蔽電流が観測され、その継続時間は平均80分でした。一方、赤道カウンターエレクトロジェットは、全ての事例において中緯度より長い継続時間(平均259分)を示しました。この結果は、赤道カウンターエレクトロジェットが数10分の時定数を持つ過遮蔽電場だけでなく、数時間から数10時間の時定数を持つ電離圏擾乱ダイナモによっても作られていることを示唆しています。
  • 過遮蔽電流系の空間分布にも着目し、2次元的な電流パターンを調べた結果、中緯度において高緯度とは逆向きの2セル電流(中緯度過遮蔽電流の全体像)を初めて検出することに成功しました。また、過遮蔽電場をもたらす領域2型沿磁力線電流の出現緯度が平均58度であり、サブストーム時(平均62度)[Hashimoto et al., 2011]より低緯度側にあることがわかりました。これは、領域2型沿磁力線電流が、磁気嵐時にはより地球の近くで発達することを示唆しています。
サブストーム開始時に発達する領域2型沿磁力線電流と赤道カウンターエレクトロジェット

サブストーム開始時に、内部磁気圏と赤道電離圏を結ぶ電流系も発達します。サブストーム時に過遮蔽電場が発達し、赤道電離圏でカウンタージェット電流が流れることが知られ [Kikuchi et al., 2000]、過遮蔽は対流電場の減少により顕在化することが報告されています [Kikuchi et al., 2003]。一方、逆にサブストーム時に対流電場が強くなり、赤道でジェット電流が増加するという報告があります [Huang et al., 2004]。

  • オーロラ帯で対流電場が増加して、なおかつ赤道で過遮蔽電場が発達するサブストームを見出し、磁力計網とSuperDARNデータを用いた詳細な解析を行いました。この結果、孤立型サブストームでは赤道過遮蔽電場の原因となる領域2型沿磁力線電流が増加すると同時に、オーロラ帯の対流電場増加の原因となる領域1型沿磁力線電流も増加することが明らかとなりました。また、過遮蔽が夜側中緯度の正のベイ変化の開始と同時か、または数分早く開始することが示されました。これらの結果から、サブストーム開始時に、夜側磁気圏電離圏で発達するカレントウエッジに加えて、昼側磁気圏電離圏を含めて、非対称環電流-領域2型沿磁力線電流-赤道カウンタージェット電流が発達することが結論されました。
  • 高緯度から赤道の磁力計ネットワークとSuperDARNデータを用いて、サブストーム開始時にサブオーロラ帯と赤道で対流電場と逆向きの過遮蔽電場および赤道カウンターエレクトロジェット (CEJ) が発達することを見いだしました。サブストームはカレントウェッジ、すなわち領域1型沿磁力線電流が発達することで特徴付けられますが、私たちの解析は、昼間磁気赤道でカウンターエレクトロジェットが発生し、数分遅れてカレントウェッジが発達することを示しました。これは、サブストーム開始時に領域1型沿磁力線電流だけでなく、領域2型沿磁力線電流も発達し、しかも過遮蔽を起こすほど強いものであることを示します。カレントウェッジのダイナモがプラズマシートにあるとすると、それより地球側でまず領域2型沿磁力線電流ダイナモが働く。サブストーム成長相中に内部磁気圏に蓄積されたエネルギーがまず領域2型沿磁力線電流を流すことによって電離圏へ解放されることを示唆します。