大学院進学を目指すみなさんへ

~総合解析研究部における大学院教育~

宇宙地球環境研究所の総合解析研究部は、名古屋大学大学院において

の2つの研究室の相互連携による理工融合型の大学院教育を実施しています。総合解析研究部の大学院を目指すみなさんは、上記2つの研究室のどちらかに入学してください。2つの研究室は一つの大きな研究グループを構成していますので、どちらの大学院に入学しても総合解析研究部のメンバーとして、その幅広い研究テーマの何れでも研究できます。大学院入試については下にある「入試情報」をご参照ください。研究室の見学もいつでも受け付けています。
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研究室紹介

太陽宇宙環境物理学(SST)研究室(名古屋大学大学院理学研究科)

太陽活動と宇宙環境のダイナミクスを最先端のシミュレーションと最新の観測データ解析から理解し予測することで、太陽宇宙環境の全体像を明らかにします。

我々が生きる星「地球」は孤立した天体ではありません。地球とその周辺の空間(ジオスペース)は母なる星「太陽」と強くつながり、一つのシステムを形作っています。それ故、地球は太陽と宇宙の影響を絶えず受けているのです。太陽宇宙環境物理学研究室(SST研)は、太陽と地球の織りなすこの広大なシステムの謎を探ることができる世界的にも数少ない研究室です。SST研では最新の観測データと最先端のスーパーコンピュータを駆使したシミュレーションの融合によって、太陽宇宙環境を多角的に解き明かすことを目指しています。その研究は太陽ダイナモ、フレア爆発、太陽風、オーロラ、宇宙嵐まで多岐に渡ります。
GPSや衛星通信などにより宇宙利用が人々の生活を支える現代社会では、太陽宇宙環境の変動を予測する宇宙天気予報の重要性が高まりつつあります。SST研では太陽フレア爆発や放射線帯の変動、磁気嵐の予測を目指した太陽宇宙環境の予測研究を本格的に行うことができます。また、太陽活動と長期的な気候変動の関係を理解する宇宙気候研究も進めることができます。基礎から応用まで多岐にわたる研究テーマを選ぶことができることはSST研の魅力の一つです。 さらに、その研究活動は国際的に広がり、修士課程から国内はもとより国際学会で活躍するチャンスも用意されています。以下では、SST研で進められている研究の一端を紹介しましょう。

母なる星、太陽の謎に迫る

太陽は我々の生活と地球環境に最も深く関係した天体でありながら、未だに多くの謎に満ちています。太陽黒点の変動、太陽系最大の爆発現象である太陽フレアの発生機、太陽を取り巻くコロナを100万度以上に加熱するメカニズム等は、現在も未知のままです。SST研では、「ひので」などの観測衛星や野辺山電波ヘリオグラフ等による最新の観測データと、京コンピュータなどのスーパーコンピュータを使った大規模シミュレーションを連携させ、こうした太陽の謎に挑んでいます。フレアと大規模なプラズマ放出の発生メカニズムを衛星観測と電磁流体力学シミュレーションによって初めて明らかにすると共に、コロナ加熱を微小なフレアの集積によって説明するための新たな研究を進めています。また、将来の黒点活動を太陽磁場観測に基づくシミュレーションによって予測する研究も進めています。
大学院生のみなさんは、電波・可視光・X線等の多波長データ解析や観測データを取り込んだ精密シミュレーション等を用いて、太陽の歴史的謎に迫る研究を手がけることができます。

太陽宇宙環境の包括的な総合解析研究

太陽・惑星間空間・地球磁気圏・電離圏からなる太陽宇宙環境では、プラズマと電磁場の相互作用を通して太陽フレアによる爆発的エネルギー解放や太陽風の加速、太陽風と地球磁気圏の相互作用による磁気嵐や放射線帯の変動、オーロラなど様々な非線形現象がダイナミックに発生しています。太陽宇宙環境物理学研究室ではこうした多様な現象を従来の学問分野の垣根を超えて包括的に理解する研究を行っています。また、磁気リコネクション、衝撃波、波動と粒子の相互作用、プラズマ不安定性など色々なプラズマ現象の基礎研究も進めています。

ジオスペース高エネルギー粒子環境の研究

地球周辺の宇宙空間であるジオスペースには、エネルギーが高い電子やイオンが大量に存在するヴァン・アレン帯(放射線帯)と呼ばれる領域があります。このヴァン・アレン帯の荷電粒子が変動するメカニズムを、「あらせ」衛星を中心とした人工衛星や地上観測のデータ解析、シミュレーションを組み合わせて研究します。また、荷電粒子の変動を高い精度で予測するために、観測データとモデルの同化に関する研究も進めています。

オーロラ爆発と脈動オーロラの研究

オーロラが激しく変動するオーロラ嵐(サブストーム)の解明を目指しています。特に、オーロラが爆発的に明るくなる現象(オーロラ爆発)と、地球磁気圏の尻尾がちぎれる現象(磁力線再結合)との関係を調べています。また、オーロラが周期的に明滅する現象(脈動オーロラ)と、内部磁気圏でのプラズマ波動との関係も調べています。これらを解明するために、宇宙や地上から撮影したオーロラ画像や、日本やNASAの人工衛星が観測したプラズマ・磁場・電場データの解析を行っています。

太陽地球圏環境の予測研究

太陽地球圏環境で生じる様々な変動現象は人間生活にも重大な影響を及ぼします。それらを科学的な理解に基づいて正確に予測することは、安全な社会を守るためにも重要です。太陽宇宙環境物理学研究室では、文部科学省新学術領域研究「太陽地球圏環境予測(PSTEP)(代表:草野完也)」の拠点として、太陽地球圏環境の予測研究を全国の研究者と共に推進しています。特に、太陽表面磁場観測に基づく太陽フレア発生の数値予測、3次元電磁流体力学シミュレーションによるコロナ質量放出とそれによる惑星間空間磁場の変動予測、波動と粒子の相互作用の精密な理解に基づく放射線帯電子の変動予測、次期太陽周期(サイクル25)の黒点活動予測などを最新の計算モデルと精密な観測データ解析に基づいて進めています。
(PSTEPのサイトhttp://www.isee.nagoya-u.ac.jp/pstep/

コロナ質量放出による惑星間磁場変動の予測シミュレーション

宇宙電磁環境工学講座 宇宙情報処理グループ(名古屋大学大学院工学研究科)

情報学的手法に基づく太陽地球系科学及び宇宙プラズマ科学の研究により、宇宙地球環境の変動を解明し、宇宙の天気を予測する。

情報学的な手法を用いた大量の人工衛星データや画像の解析処理やデータ同化及び、スーパーコンピュータを用いた超並列計算機シミュレーションなどのアプローチにより、ジオスペースおよび太陽地球惑星系の環境変動を数理的に研究しています。各教員は他の研究グループと協力して太陽地球系科学及び宇宙プラズマ科学の研究を進めるとともに、教育においてはSST太陽宇宙環境物理学研究室と密接に関わりながら大学院工学研究科の学生の指導を担当しています。

人工衛星データ解析によるジオスペース環境及び太陽大気の研究

惑星間空間は、太陽から吹き出す希薄な超音速プラズマ流(太陽風)によって満たされています。一方、地球などの惑星は固有の磁場を持っていますが、その固有磁場と太陽風が相互作用を行う結果、磁気圏と呼ばれる構造が形成されます。この地球周辺の宇宙空間のことをジオスペースとよびます。磁気圏は太陽風から質量やエネルギーを取り込み、それを蓄積して解放する変化を繰り返し行っています。サブストームと呼ばれるその爆発現象と関連し、高緯度域において大規模な自然放電現象であるオーロラが活発化、放射線帯(ヴァン・アレン帯)と呼ばれる1,000,000eVを超えるエネルギーを持つ粒子が変動します。それらの変動は、プラズマの運動によって引き起こされます。
私たちはそのような現象の性質と発生の原因を人工衛星で取得された大量のデータの情報学的な解析とスーパーコンピュータを用いた計算機シミュレーションによって研究しています。実際問題として、太陽の息づきによる太陽風と太陽からの磁場の変動によって、地球磁気圏の応答も絶えず複雑に変化し、サブストームや放射線帯の変動等により、人工衛星の障害など、私たちの生活にも影響を与える可能性があります。国際協同で開始された「宇宙天気」研究の一環として上のような研究が行われるようになっています。
私たちのグループでは、地球の磁気圏を観測するために打上られたGEOTAIL衛星やTHEMIS衛星で取得されたデータを解析することによって、サブストームがいかにして発生して駆動されるかという磁気圏物理学の最大の難問について解答を与えるべく研究を行っています。そして、その成果として、右図に示すような独自のサブストームのモデルにたどり着きました。
また、ジオスペースの高エネルギー粒子の変動過程についての研究も精力的に進めています。太陽風の変動に伴って、ジオスペースの高エネルギー粒子がいつ、どのくらい増えるのかを予測することが可能になれば、人工衛星等の被害を軽減できる可能性があります。私たちのグループでは、2016年に打ち上げられたJAXAの科学衛星「あらせ」の最新のデータを用いて、この高エネルギー粒子の変動過程の研究を行っていきます。また、観測データとシミュレーションを組み合わせた研究も推進しています。
また、ジオスペース環境変動の主な原因である太陽大気の活動についても、ひので、SDO衛星や地上望遠鏡で取得された画像を解析し研究しています。なかでも地球環境に最も影響を及ぼす爆発現象(フレア)やコロナ質量放出(CME)が、いつどこでどのようにして起こるかに着目し、将来的にフレアの予報を目指し研究を行っております。

本研究グループが考案した
新しいサブストーム発生モデル
ジオスペース探査衛星 あらせ
(2016年打ち上げ)
データ同化による宇宙天気の研究
放射線帯シミュレーションのデータ同化の例

近年、観測データとコンピュータシミュレーションを融合させたデータ同化と呼ばれる手法が急速に発達しています。人工衛星による観測は、広大なジオスペースのごく一部分のみですので、観測データだけでジオスペースの全体像を把握することは困難です。一方、シミュレーションは広い空間領域にわたって計算することが可能な一方、シミュレーションに用いられているパラメータや境界条件等には、ある不確定性が常につきまといます。このような問題点を改善するために、シミュレーションと観測データを統合し、実際の観測データをうまく説明できるようなパラメータを見つけ出し、高精度な計算を実現することが、データ同化です。
データ同化にはいくつかの異なる方法がありますが、私たちの研究グループは「粒子フィルター」と呼ばれる逐次型のデータ同化の手法を用いて「放射線帯」の変動予測の研究を進めています。データ同化を行うことによって、シミュレーションの支配方程式で使われている各種パラメータを改善し、より高精度なシミュレーションを実現することを目的としています。また、データ同化から推定されたパラメータと、そのパラメータと密接に関係すると思われる観測量を比較することにより、放射線帯の物理機構の研究も進めています。
データ同化によってシミュレーションのパラメータを改善・改良することで、高精度な予測数値計算が可能になります。また放射線帯シミュレーションモデルにも更なる改良を行い、これらを通して高精度予測計算を実現し、数値宇宙天気予報の精度向上に貢献していきたいと考えています。

ひので衛星による太陽フレア画像(JAXA、国立天文台)
スーパーコンピュータを用いたジオスペース環境及び太陽大気の計算機シミュレーション

衛星観測データの解析と並んで、コンピュータシミュレーションによる宇宙天気研究が盛んに行われています。宇宙天気予測の実用に耐えるような信頼性の高いシミュレーション手法の構築は重要な課題です。本研究グループでは、太陽フレアや太陽風-磁気圏相互作用などの巨視的現象を扱う電磁流体(MHD)コードや、プラズマを構成する電子やイオンなど粒子1つ1つの運動と電磁場との相互作用に起因する微視的現象を扱う運動論コードなどを用いて、スーパーコンピュータを利用した計算機シミュレーションを行っています。
計算機シミュレーションは名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータや研究所のスーパーコンピュータを用いて行っています。シミュレーション結果は、研究所のヴァーチャルリアリティ装置を用いて3次元立体として可視化します。
コンピュータシミュレーションにより、先に挙げたサブストーム発生機構の妥当性の検証や、太陽フレアがいつどこでどのように起こるかを理解する事を試みています。また、境界層の変動や衝撃波などの宇宙プラズマ環境における素過程もコンピュータシミュレーションを用いて精力的に研究しています。さらに私たちの研究グループでは、シミュレーションコードそのものの開発にも力を入れています。

研究所のスーパーコンピュータ(左)及びヴァーチャルリアリティシステムによる3次元可視化(右)
(上)地球磁気圏の3次元MHDシミュレーション
(下左)低緯度境界層におけるケルヴィン・ヘルムホルツ不安定性と
(下右)磁気圏尾部における磁気リコネクションの運動論シミュレーション

大学院生からのメッセージ


理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻
太陽宇宙環境物理学(SST) 研究室
博士課程(後期課程)
2年(2017年4月6日現在)
柴山 拓也

「天文学を研究している」と言うとたいていの人に「望遠鏡で星を見てるの?」というようなことを聞かれますが、私の場合研究に使うのは望遠鏡ではなくスーパーコンピュータ(スパコン)です。天文学や地球物理学においてスパコンはいわば「実験室」と言えます。地上では再現できない宇宙環境をコンピュータ上に再現してそこで起こっている現象の物理過程を明らかにするのです。私は太陽フレアの爆発メカニズムについて、非常に小さな構造がフレア全体のエネルギー変換効率にどう関わってくるかという研究をしています。
宇宙地球環境研究所は研究科の研究室などより独立性の高い研究機関ですからスパコン並みのシステムや独自の観測機器、豊富な人材など研究環境も整っています。私も研究所のスパコンで研究を始めて今では世界7位のスパコン「京コンピュータ」で研究を行っています。スパコンから出てきた大量のデータを処理するシステムも整っているのでストレスなく研究ができます。また、研究所には外国人研究者を含めた多くの優れた研究者が在籍していて自分の研究に関連する分野の研究者とコーヒーを飲みながら日常的に研究の議論ができます。英語で議論する機会も多いので国際学会でも遠慮せずに研究の議論ができるようになりました。研究所には研究者としての最初の一歩をふみ出す最高の環境が整っています。

宇宙地球環境研究所の教育

宇宙地球環境研究所における大学院・学部教育全般については、このページを参照ください。

入試情報

総合解析研究部への進学を希望される方は、名古屋大学大学院理学研究科または工学研究科の入試を受験してください。それぞれの入試及び各専攻の詳細については、下記をご参照ください。

見学受付

総合解析研究部ではいつでも研究室の見学を受け付けています。
見学ご希望の方は isee.nagoya-u.ac.jp までご連絡ください。